「人と同じじゃつまらない。」

そう思っていても、ついついAmazonで星の数を見て本を選び、「みんなが良いと言うなら間違いない」と思い、本を購入している自分がいる。 そんな本の探し方ばかりしていると、次第に読んでいるのか読まされているのか分からなくなってくる。

休日は、本を愛してやまない店主が営む街の本屋さんに足を運んでみよう。そして自分が本当に読みたいとっておきの一冊を見つけよう。

今回の舞台は中央線沿いで人気の街、吉祥寺と三鷹。個性的なセレクトが光るお店だけに絞ったSYNAPSE ONLINE MAGAZINEならではの書店ガイド、ぜひ最後までお楽しみいただきたい。

太宰治ゆかりの地・三鷹で読む

「綺麗な花だなあ。」

 と若い編輯者はその写真の下の机に飾られてある一束の花を見て、そう言った。

「なんて花でしょう。」

 と彼にたずねられて、私はすらすらと答えた。

「Phosphorescence」

現実と夢が錯綜する太宰治の短編『フォスフォレッスセンス』からの一節だ。Synapseでオンラインサロン「まきむぅの 手乗り文芸部」を主宰する文筆家・牧村朝子さんから、このタイトルをお店の名前にした素敵なブックカフェがあるというメッセージをもらった。

フォスフォレッセンスは、三鷹駅から、学生時代住んでいた家への帰り道にありました。

いつもバスで通っていました。小田急バスの、鷹52線かな。

でも、当時は、めちゃくちゃお金がなくってですね。

カフェ代すらもなくってですね。実は、お店に入ったことはないんです。

三鷹駅前でバイトして、お店で廃棄になったお惣菜を食べて、なんとか食いつないでいる毎日でした。そんな生活だったから、バスで横目に見ながら、「いつか行ってやる~」って思ってたのがフォスフォレッセンスでした。

太宰は結婚を機に三鷹に移り住んで以来、生涯を三鷹で暮らした。彼の墓も三鷹の禅林寺に置かれている。三鷹は太宰ゆかりの地なのだ。

僕は早速中央線に飛び乗った。ブックカフェ「フォスフォレッセンス」は三鷹市役所付近にある。

扉を開くとオーナーの駄場みゆきさんが暖かく迎えてくれた。

太宰に関連する本が所狭しと並ぶ店内はまるで書斎のようだ。

カフェスペースは窓際だけではなく本棚の裏にもある。通称「自習室」。ここで読書をすると一層本の世界に浸れそうだ。

壁には太宰に関連する映画のポスターや肖像画が飾られている。フォスフォレッセンスに通う太宰ファンから頂いたものが多いそうだ。

昔は京都の新刊書店員だった駄場さん。 ニューヨーク旅行に行った際、現地のブックカフェに魅了されいつか日本でブックカフェを開いてみたいと思ったという。

三鷹には太宰治の忌日である桜桃忌によく訪れていた。毎年太宰ゆかりの地を巡っていたが、次第に「この思いを誰かに話したい」「もう一服できる場所が欲しい」と感じるようになった。そして「太宰について語り合えるような場所を作りたい」と思い、心に抱いていたブックカフェの構想を実現した。京都から引っ越し太宰ゆかりの地である三鷹で始めたブックカフェは 今年で15周年を迎える。

実際、太宰にまつわるスポットを巡った後に訪れるお客さんは多く、取材当日も太宰のお墓がある禅林寺からお客さんが訪れるという連絡が入っていた。

「フォスフォレッセンス」の目玉はなんといっても太宰治全初版本・異装版コレクションだ。限定500部しか発行されていない超貴重な初版の『晩年』も展示されている。古本の街・神保町ではガラスケースの中に大切に保管されている代物だ。こちらは非売品ではあるものの、なんと手にとって見ることができる。太宰ファンにはたまらない。

太宰の師匠にあたる井伏鱒二に関する書籍も充実している。

太宰好きでお店まで作ってしまうほどの駄場さんだが、太宰にハマったきっかけは意外にも太宰の”顔”からだという。有名なバー・ルパンでの写真を見て惚れ込み、そこから「どんな作品を書いているのだろう」と気になって読み始めたそうだ。

文豪の中でもモテ男として有名な太宰。現代でも人を惹きつける魅力があるのだろう。

そんな駄場さんに太宰初心者にオススメの本を紹介していただいた。

1.太宰治(著)高橋マリ子(翻訳)『URASHIMASAN』

英訳がついているので外国人の方にもオススメできる一冊。女優の高橋マリ子さんが翻訳しています。オカダミカさんがイラストを手掛けており、表紙も中身もとても美しいです。帯は小説家の平野啓一郎さんです。

2. 太宰治『富嶽百景・走れメロス 他八篇』

『人間失格』で太宰を拒否してしまう人は多いんですよね。こちらは読みやすい明るい作品が多いので、『人間失格』を読んで太宰から離れてしまった人に読んでいただきたいです。

3.『新潮日本文学アルバム太宰治』

太宰治は人生ごと文学の人です。どんな人生を送ってきたのか知りたい人にオススメの一冊がこちらです。太宰の写真にはいくつかきまったポーズがあるので、そこに注目してみても面白いですね。

取材前は「太宰ファンじゃないとちょっと入りづらいのかも・・・」と思っていたが、いつしかそんな不安は消えていた。太宰を知らない人も大歓迎。名物・太宰ラテを飲みに気軽に立ち寄ってみてはいかがだろうか。

店舗基本情報

フォスフォレッセンス
住所:東京都三鷹市上連雀8-4-1
TEL:0422-46-1004
営業時間:12:00~20:00 毎週水曜日、第3火曜日定休

アングラな世界に浸る

三鷹市役所前からバスに乗り吉祥寺駅に移動した。吉祥寺の中心部には大型デパートやチェーン店が立ち並ぶが、少し外れると個性的なお店が多い。吉祥寺駅からヨドバシカメラ裏側の方へ5分ほど歩くと、次の目的地である「すうさい堂」が見えてきた。

お店に一歩踏み込むとアングラな世界が広がる。

“アンダー”グラウンド、”サブ”カルチャーとはいうものの「自分にとってはこれが普通だと思って生きてきた」というオーナーの小阿瀬正哉さん。陽の当たるところには置かれていない、小阿瀬さん好みにセレクトされたマニアックな漫画や小説がずらりと並ぶ。

筒井康隆は小阿瀬さんのお気に入りだ。

古本屋には外せない百円コーナーは入り口とレジ横にある。「うちではあまり売れないようなものは100円にしてしまいます。」という小阿瀬さん。思わぬお宝が見つかるかもしれない。

小阿瀬さんが22歳の時に描いた絵も販売している。

それでは早速掘ってみよう。

まずは漫画を漁ってみる。独特の世界観で漫画家や映画監督にもファンが多い諸星大二郎の漫画『夢の木の下で』『未来歳時記バイオの黙示録』を見つけた。SF漫画を語るならば外せない。

「藤子不二雄」時代の異色短編集といったレアな漫画も見つかった。

すうさい堂には映画に関する本も多い。『悪趣味ビデオ学入門!』は「どこでそんな映画借りられるの!?」とつい言いたくなるDVDにもなっていないマイナーな作品ばかりを取り上げている、なんともマニアックな一冊だ。

DJもやるという小阿瀬さん。音楽コーナーも独特なセレクトで面白い。中でも1966年から1969年までの日本のサイケデリックだけを紹介しているディスクガイドに目がとまった。日本のサイケデリックのみで、しかもたった4年で一冊作ってしまうとは…。その4年はどれだけ濃い年だったのだろうか。

読み始めたら止まらない本ばかり。あっという間に時間が過ぎてしまった。 最後に小阿瀬さんが今一押しの本を紹介してもらった。

1.平山夢明『他人事』

ひどい話を書かせたらナンバーワンの平山夢明さん。長編も面白いんですけど、まずは短編を読んでみてください。文庫だけではなくハードカバーもありますよ。

帯はHUNTER×HUNTERでお馴染みの冨樫義博氏が書いている。

2.佐藤卓己『ヒトラーの呪縛』

日本のナチカルチャーを紹介した一冊。悪役のイメージが強いナチはサブカルと相性がいいですからね。

3.森まゆみ『断髪のモダンガール―42人の大正快女伝』

吉屋信子、与謝野晶子、尾崎翠等、大正時代を奔放に生きた女性たちの生き方が描かれています。

漫画、映画、音楽などサブカル好きは是非一度足を運んでみてほしい。今まで出会ったことがないお気に入りの一冊が見つかるはずだ。 運が良ければ、看板猫ヂルか迎えてくれるかも。

店舗基本情報

すうさい堂
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町1-28-3ジャルダン吉祥寺103
TEL:0422-22-1813
営業時間:13時~20時 毎週火曜水曜定休

ジャンルの垣根を超えた本に出会う

吉祥寺には外せない本屋がもう一軒ある。「百年」だ。

1世紀は0から始まり百年経つとまた始まりである0に戻る。そんな「百年」という生と死を象徴するサイクルを、古本のサイクルに重ねて名付けられた。

あえてセレクトしていないことがこのお店の特徴だ。特定の基準で厳しくセレクトすると洗練されたセンスが際立ちブランド感を強めるが、一方で世界との関わり方を狭めてしまい兼ねない。

「お客さんには色々なジャンルに飛びついてほしいし、自分としても枝葉を広げていくほうが面白がれると思うんです」と語るのはオーナーの樽本樹廣さん。

アート系から文学、哲学、サブカルチャーまで様々なジャンルを扱う。また、本や雑誌だけではなくZINEやルックブック、CD、レコードいったものまで幅広く揃っている。

レジの後ろの棚にはコアなファンの多い北園克衛の詩集など貴重な本が売られている。ルポライター・竹中労の絶版本『タレント帝国』も見える。あまり見かけないレアな本だけに購入するにはちょっと勇気がいりそうだ。

百年のコンセプトは「コミュニケーションする本屋」だ。「コミュニケーションする本屋」と言っても、直接店員とお客さんが会話をするという意味ではなく、本の売買行為を通してコミュニケーションをすることを考えている。樽本さん曰く「本は雄弁に語る」のだ。

「本以外にも様々な方法で新しい出会いを届けたい」という想いから百年では展覧会やトークイベントも行なっている。展覧会は百年に訪れたお客さんからの繋がりが多い。

「こちらから声をかけることはあまりなく、展示したいと言ってくれる人が多いですね。『なぜ百年でやるのか』をしっかりと考えている人で、納得できれば協力させていただきます。」

取材させていたタイミングでは、オーストラリア出身の画家JOEL PLUNKETTさんの個展「… is…」が開催されていた。アーティストの肖像画の上からトレースされた作品からは、人間の内面が浮かび上がってきたかのような印象を受ける。

なんと、JOEL PLUNKETTさんの4歳の娘さんが書いた絵(囲むように配置された4枚)も展示されている。この才能には脱帽する。

個展「… is…」は5月12日まで開催されているので是非ご覧いただきたい。

最後にGWに読みたい「百年」一押しの本を紹介してもらった。

1.三品輝起『すべての雑貨』

吉祥寺の出版社である夏葉社からの新刊です。西荻窪の雑貨店「FALL」の店主である三品さんの単著です。雑貨店の経営から感じた雑貨論が綴られているので、ビジネス書としても読めると思います。夏葉社さんの本はどれも装丁が美しいんです。吉祥寺の街にもあっている気がします。

2.エディトリアルデザイナー羽良多平吉がデザインを手がけた雑誌やポスター

うちはアート・デザイン系がよく売れています。中でも今注目は羽良多平吉さんの作品です。貴重な点国ドライブのポスターも販売しています。なかなかここまで揃うことは珍しいんです。是非学生さんも手にとって見てもらいたいと思い展示しています。

3.Mark Borthwickの写真集

写真好きな若い方に人気の写真家Mark Borthwickの写真集です。Mark Borthwickはジャンルレスに活動している方で、写真だけでなく音楽活動もしていてCDも出しているんです

写真好きだけではなく、アート、ファッション、文学に興味のある人が見ても面白そうな作品だ。

「百年」は文学や哲学が好きな人から、アート、音楽に興味がある人まで多くの人に開けた本屋だ。だからこそ、あえて自分が知らないジャンルの棚も見てみよう。ネットサーフィンでは出会えない素敵な本が待っているはずだ。

店舗基本情報

百年
住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-2-10村田ビル2F
TEL:0422-27-6885
営業時間:月曜日~金曜日/12:00~23:00 土曜日/11:00~23:00 日曜日/11:00~22:00 毎週火曜日定休

全くタイプの違うお店を3軒紹介させていただいたが、いかがだっただろうか。

気に入った本屋が見つかった人は是非足を運んでみてほしい。3軒とも気になった人は、丸1日かけて3店舗回るという本づくしの休日を過ごすことをオススメしたい。きっとあなたの知らない世界への扉が開くはずだ。

まきむぅの 手乗り文芸部
まきむぅの 手乗り文芸部
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コンパクトで置き場所に困らない、手のひらサイズの文芸部です。スマホひとつで、おふとんからでも、読める、書ける、つながれる。...