昨年12月2日、「カジノ法案」こと「IR整備推進法案」(以下、「IR法案」)が衆院内閣委員会で採決された。このニュースは国民にやや唐突な印象を与えたように思う。

新聞各紙の社説にも「唐突な採決に反対する」(毎日新聞)や「『数の力』を振り回すな」(朝日新聞)といった言葉が並ぶ。

しかし、このIR法案の歴史は思いのほか長い。2011年に超党派の議員立法で公表され、2013年に提出、2015年に再提出されたもので、今回成立した法案はその名からもわかるように、「国会でカジノにまつわる議論を開始するため」のものだ。やっとスタートラインに立ったところであると言って良いだろう。

そのような中で、猪瀬直樹は日本カジノ学会で理事を務め、都知事時代には「大人の社交場」としてのカジノ設置を提言していた。対する鍛野(かじの)ミミは、カジノディーラー及びカジノビジネスで26年のキャリアを持ち、2013年よりIR誘致のためカジノコンサルティング業務とIR講師を担っている。

今回はこの2人によるトークライブ「カジノ法案可決!どうなる!? 2017年カジノ誘致のシナリオ」の模様をお送りしたい。これから活発になっていくカジノ設置の議論について理解を深めるうえで、立場を異にする2人からの提言は大変有意義なものだった。

カジノについての日本人の誤解

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そもそもIRとはなんだろうか。世界各国のカジノを見てきた鍛野ミミによる説明はわかりやすい。IR(Integrated Resort 統合リゾート)とは、特定の地域における「統合型施設群」のことで、そこにはハイエンドなカジノホテル、ショッピングモール、MICE施設、劇場、コンサートホール、ビジネスセンター、スポーツ場、結婚式場、SPA・温泉など「モノ・コト・ヒト」が含まれる「ダイバーシティ空間」と説明。

これらの施設ができることで多くの外貨獲得が見込めるのもIR施設の魅力の一つだが、IRの基本概念は「ダイバーシティ」であり、老若男女の「新たな雇用創出」やアベノミクスが掲げている「女性が輝ける社会づくり」に貢献できることが最大の魅力だと鍛野ミミはいう。

カジノは既に世界140カ国で導入。そして大型IRで働いている人材は多岐に渡るため、会話の主言語は英語である。その他、IR施設の男女雇用比率はおおよそ半々で、女性の活躍が必要不可欠な産業としても世界で認知されている。加えてカジノビジネスは「ホスピタリティビジネス」。日本では未だギャンブル依存症が注視されるが、カジノは世界の富裕層、VIPハイローラー、その他世界中のお客様を何度でも(リピートで)誘致できる「コミュニティ施設」の役割も担っていると鍛野ミミは主張した。

またアメリカやシンガポール、その他マカオなどの大型IRと異なり「スモール・カジノ」と呼ばれる欧州型カジノは、「ギャンブル」として批判されることは少なく、地元の人々の生活文化にも密着したものであるらしい。もちろんこういった方向性についても再検討の余地はある。

猪瀬は、鍛野ミミとは別の視点から日本にカジノが必要な理由を語る。

カジノを「大人の社交場」と形容する彼は、「日本人はせっかく高いドレスや着物を買っても、結婚式しか着る場所がない。たまに大人がオシャレして行く場所をつくらないと『大人の社会』ができないよ」と言う。カジノは単なるお金儲けの道具ではなく、大人のコミュニケーションの場として機能するのだ。

鍛野ミミは12歳のときに家族旅行で訪れたモーリシャス島でカジノに出会った。黒人のドアマンに無理を言って、ドアの隙間から垣間見た世界。ドアの向こう側にあった華やかなカジノの光景と正装した大人の男女の楽しそうな雰囲気に心を奪われたから、今の自分がいると振り返る。鍛野ミミはこの時、初めて「ドレスコード」という言葉と出会い、今では自身が主催する多くの模擬カジノイベントで「ドレスコード」を付けるという。

鍛野ミミの来歴を聞いた猪瀬は「ドレスコードのようなある種の階級制ってものが、日本人にはわかりづらいんだよね」と語った。

カジノは誰でも行けるギャンブルの場ではなく成熟した大人の遊び場であり社交場である、というのがふたりに共通した考えだ。

カジノ議論のポイント 依存症問題、エンターテインメントとしてのIR

「ギャンブル依存症が増加する」と懸念してカジノ解禁に反対する人は多い。

しかし上にも書いたように、カジノやIR施設はあらゆる「モノ・コト・ヒト」を包含する「ダイバーシティ」というのが、今では世界の共通認識であるようだ。

カジノは富裕層やVIPハイローラーから5セント(約5円)のスロットマシンまでゲームの種類や賭金の幅も多種多様だ。

鍛野ミミは「日本型IRを創造するためには、パチンコ業界とカジノ業界は、今後融合して行かなければならないと考えています。既に、パチンコ業界の方々はそのように考えていらっしゃるのではないでしょうか」とパチンコ業界とカジノ業界融合の必要性について語る。

猪瀬は「パチンコは戦後日本のタブーのひとつだ」と指摘したうえで「カジノの議論はパチンコの問題と絡めて話し合われるべきだ」と提案する。

刑法で賭博を禁じる日本にあって、パチンコはグレーゾーンとして黙認されてきた。IR法案が議題に上がりギャンブル依存症対策が真剣に考えられることで、ギャンブル依存症患者を減らす道筋がつくられるといった見方もある。

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「カジノ誘致のシナリオ」のこれから

猪瀬はIR法案が議員立法になっているのは、どこの省庁が管轄するかハッキリしていないからだろう、と推測していた。また都知事時代の彼がいつかIR法案が成立したときのために、カジノ用にお台場に確保していた土地は、後に交代した都知事によって売却されてしまったという。鍛野ミミも言っていたように、カジノはいつどこにできるのか不透明である。

だが、今回のIR法案が通ったことによって、賛成派も意見をたたかわせ、日本の観光産業のあり方を考える契機になる。

この日客席にはラスベガスや日本でマジックショーの演出に携わっている青年が来ていた。「日本ではマジックバーや店舗スペースなど小さい会場で行われることが多いマジックショーだが、カジノができたらラスベガスのような大きいステージも増えるだろう」と語る彼の目は輝いていた。

また、「日本には温泉という観光名物があるが、そこでできる遊びといえば卓球くらいなもの。遊びの選択肢が貧しいんだ」と猪瀬は指摘する。温泉といえばゆったり過ごす場所というイメージだが、日本にIRができたら、私営の美術館や博物館、劇場、マジックショーが行える大きなステージや有名アーティストがライブを行えるホールが増えるだろう。成熟した大人たちが楽しめるエンターテインメントの場が増えることで、文化的にも厚みのある観光プランを提案することができるようになる。

もうひとつ、カジノの意味は、ヨーロッパの寄付文化がカジノから始まっていることだ。例えばマカオではその収益の一部は福祉と教育に回る仕組みになっている。もし積極的な誘致を目指している大阪、長崎、北海道などでカジノが設置されれば日本の寄付文化、フィランソロピーと呼ばれる企業の社会貢献、公益のための寄付などに大きな画期をもたらすだろう。

カジノは成熟した大人の遊び場・社交場ということであるが、それ以上にIRにはさまざまなエンターテインメント、ビジネスへの波及効果をもたらす可能性がある。カジノについて議論を深めていくことは同時に、これからの日本のグランドデザインを描く作業となるはずだ。

 – 構成:安里和哲

鍛野ミミとCasino Sense -カジノセンス-
鍛野ミミとCasino Sense -カジノセンス-
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