デザイン思考(Design Thinking)とは、

人間中心デザインに基づいたイノベーションを起こすための、主として非デザイナーを対象とした発想法である。 

と定義されている。

日本企業はこれまで「生産」「流通」「販売」といった工程をいかに正確に行うか、素早く行うかといった、ビジネスの下流において大きな強みを発揮してきた。

そのため日本には、磨き上げられた業務オペレーションを競争上の優位性とする企業が数多く存在し、特にトヨタ、花王、ヤマト運輸、セブンイレブンといった企業に関するケーススタディは欧米の経営大学院においても多く取り上げられてきた。

これら日本企業の優位性を支えてきたのは、「技術起点」のアプローチに基づくプロダクトの開発・改善力や「市場起点」のアプローチに基づく精度の高い販売予測や生産管理力だろう。

しかし、昨今では、日本企業の多くがこれまでのやり方では新しい発想を生み出すこと、すなわちイノベーションを生み出すことに限界を感じるようになってきた。

そこで提唱されたのが「人間起点」のアプローチである。冒頭に挙げさせていただいたデザイン思考の定義の中にも”人間中心デザインに基づいた”というフレーズがある。それは一体どういうことなのだろうか。

「デザイン思考」という言葉は知っているけども、その設計思想や具体的な技法についてはよく分からないという方のために、今回はいくつかの書籍を紹介しながら、デザイン思考に”再入門”するきっかけを提供したいと思う。

デザイン思考のはじまり

デザイン思考は、米国のデザインコンサルティングファーム・IDEO社が用いる手法への注目から世に広まった。IDEO社のWebサイトにはこのように記されている。

デザイン思考/人間中心デザインは、IDEOが1991年の創業以来、Appleの初代マウスをはじめ、人とモノ、人とコトのインタラクションをデザインする上で大切にしているアプローチです。 https://www.ideo.com/jp/post/our-approach

見ての通り、その起源は1991年まで遡ることになるが、日本においてこの考え方が広く紹介されるきっかけとなったのはこの書籍だろう。

まだ「デザイン思考」や「デザインシンキング」といったワードが与えられる以前の書籍だが、IDEO社の手法が詳細に日本語で紹介された最初の文献だ。内容は、さながらIDEO社の”新規事業・新商品創出ドキュメンタリー”のような構成になっており、「新しいモノ・コトを生み出すための発想法」から、それらを受け容れるための「組織づくり」、創造性を刺激するための「オフィス環境づくり」に至るまで、具体的なノウハウが余すことなく紹介されている。

この書籍から読み取れる、IDEO社の手法の肝は「エスノグラフィ(行動観察)」と「プロトタイピング」だ。前者は論理やデータの操作ではなく現場で人間の行動を観察するところから問題を発見することを指し、後者は実際に触れるプロトタイプを数多く製作し、使用感をテストしながらプロダクトを創りあげていくスタイルのことを指す。

本書はカラーで、写真も豊富に使われているため、現場に赴くことやプロトタイプを実際に作ってみる工程の楽しさはもちろん、それらがいかに人の創造性を引き出すかということについても実感を伴う形で読みとおすことができる。

デザイン思考の体系化

IDEO社の手法が日本で紹介されるにつれ、その活用に関心を持つ日本企業も増えてきた。そして、実際に現場で活用することを考えた場合に重要になってくるのが、その手法が持つ理論的枠組み、体系を知ることだ。それらを解き明かし、普及しようと試みたのが慶應義塾大学の奥出直人教授ではないだろうか。

奥出直人教授は文化人類学、現象学、メディア環境論などの幅広い研究業績を基盤に持つ研究者であり、「21世紀のモノづくりの根幹となるフレームワーク」の研究領域における第一人者である。

本書では、出版当時(2007年)急速に普及しつつあったiPodについて、「それを生み出した思考法こそがデザイン思考である」といった例話を紹介しつつ、より体系的にIDEO社の手法を論じた。先に紹介した「発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法」が、デザイン思考を用いる過程におけるワクワク感、臨場感を伝えることに重きをおいた書籍だとしたら、こちらはまさにデザイン思考の理論的枠組みを正確に伝えるための書籍だ。

また、こちらの書籍は出版から10年が経とうとしているが、現役の研究者である奥出直人氏が持つ最新の知見等については、IBMがスポンサードするデジタルメディア「Mugendai(無限大)」における2016年のインタビュー記事「企業の中にこそ必要な『デザイン思考』の今」等も参照頂けたらと思う。

 

デザイン思考の現在地

では、現在デザイン思考は現場でどのように活用されているのだろうか。それを知るためには最新の書籍にアクセスしてみる必要がある。

著者の岩嵜博論氏はイリノイ工科大学のデザインスクールに学び、現在は株式会社博報堂ブランド・イノベーションデザイン局イノベーションデザイン部部長を務める実践家だ。本場米国で学んだ技術体系をベースにあらゆる業界で、営利非営利問わず新商品開発やイノベーション実践の現場に携わってきた。

本書のまえがきにはこうある。

新しい製品・サービス・事業を生み出すためには、冒頭に出てきた「MECE」「定量情報」「分析」というやり方を一旦、脇に置く必要がある。むしろその真逆の考え方をすることが、新しい市場をつくるためには不可欠なのだ。真逆の考え方とは、こういうことだ。「MECEではなく、枠外の視点を探索する」「定量情報ではなく、定性情報を収集する」「分析ではなく、統合する」 (編集部注:MECEとは『モレなくダブりなく』という意味の英語『Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive』の頭文字を取ったもの)

早速中身も読ませていただいたが、このまえがきにある通り「何をすべき」で「何をすべきでないか」が明確に論じられている。また、その工程もこれまでの書籍に比べてより細かく、実践しやすいようにアレンジされている。

1. 機会発見とは何か?
2. 機会発見のプロセス
3. 課題リフレーミング
4. 日記調査とデプスインタビュー
5. エスノグラフィ調査
6. 情報の共有と整理
7. 機会フレーミング
8. 機会コミュニケーション

岩嵜博論氏によれば、この手法は「デザイン思考」に加えて「マーケティング」と「社会学」の考え方や技法を加えたものであるという。興味を持った方は、是非手にとって、この手法を実践してみてほしい。

さいごに

「書籍だけでは物足りない」「じっくりと読書をするのは性に合わない」といった方々に向けて、Synapseでオンラインサロン「博報堂DYグループ内シンクタンクによる企画塾イノベーターズ・ジャーニー」を主宰する株式会社SEEDATAが、三冊目に紹介した書籍の著者である岩嵜博論氏をお呼びしたトークセッションを開催する予定だ。

■イベントタイトル
『機会発見』とは何か? 〜生活者起点の新規事業創造を学ぶ〜

■実施概要
日時:2016年12月8日19時半~21時半
場所:博報堂ラーニングスタジオ(東京都港区赤坂2–14–27 国際新赤坂ビル東館11階)
定員:30名
参加費:一般2000円

前半で岩嵜博論氏による独自アプローチの概観・解説を頂き、後半には参加者からの質問・お悩みに次々と答えていくという贅沢なイベントである。 ※イベントは終了しました

興味をお持ち頂けた方は、是非イベントにも足を運んでみてほしい。

 

博報堂DYグループ内シンクタンクによる企画塾イノベーターズ・ジャーニー
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