4月22日は、レコード・ストア・デイだそうだ。

といっても、音楽好きな人でさえその言葉を聴いたことがある人は少ないように思う。特に若い人ほどそうだと思うのだが、レコードを聴いたり、買ってみたりしたことがある人は少ないのではないだろうか。僕もない。平成の世に生まれた僕もまた、音楽といえばレコードでもCDでもなく、音源データを聴くのが当たり前という時代に育ったからだ。

では、「レコード・ストア・デイ」とはいったいどのような日なのだろうか。公式サイトに書かれている紹介文を見てみよう。

RECORD STORE DAY(レコード・ストア・デイ)とは、レコードショップに行き、アナログレコードを始め、カセットやCDやグッズを手にし、アーティストとショップ、そしてリスナーの皆さんで音楽の楽しさを共有する、年に1度の祭典です。

2017年は4月22日(土) 世界同時開催!

現在アメリカをはじめ世界21カ国の数百を数えるレコードショップが参加を表明しており、限定盤のアナログレコード・CD・グッズがリリースされるほか、この日に向けて多くの賛同アーティストによるライブやイベントが開催されます。是非この機会にレコードショップに行って、音楽を手に取れる喜びを味わってみてください。MP3で聴く音楽とは全く違う音楽との関わり方を、1人でも多くの人に知ってもらえたら幸いです。

引用:http://www.recordstoreday.jp/

21カ国のレコードショップが参加し、世界同時開催とはまた凄い。

最近、にわかにアナログ・レコードがブームになっているという話は僕も聞いている。なんでも国際会計事務所・デロイトの発表によれば、世界でのアナログ・レコードの年間売上枚数は今年4,000万枚に達する見込みで、その市場規模は2000年以降で初となる10億ドルの大台に乗る可能性があるという。

音楽好きを自称し、まがりなりにも音楽をやる側の人間でもある僕も乗るしか無い。このビッグウェーブに。

「レコードで聴きたくなる」音楽

というわけで、レコードで音楽を聴いたことのない人たちを代表し、僕も何枚かレコードで音楽を聴かせてもらってきた。レコードプレーヤーの機能と、レコードの取り扱い方をひととおり教えてもらい、ヘッドフォンを耳に当て、針を落とす。緊張の一瞬だ。

ブツリという音のあとにわずかに鳴りはじめたノイズをバックに、音楽が奏でられていく。ヘッドフォンのクオリティが高いので音質はクリアだが、そのクリアさとは本来相容れないはずのノイズもまたクリアに、音楽と一体となり確実に鳴っている。この奇妙なマッチングが、よく言われる「アナログ・レコードならではのあたたかみ」というやつなのかもしれない。うーん。いいかも。


ちなみに、こういったノイズを「味」として取り入れる音楽もある。たとえばローファイという音楽ジャンル。(例:Sebadoh – Flame)

ヒップホップでも特にオールドスクールなものはトラックメイクの性質上、ローファイな音作りになりがちだ。(例:Kid Koala – Fender Bender)

あとは、アンビエントなどのジャンルで「グリッチ」と呼ばれるノイズが取り入れられることもある。Aphex Twinなどはグリッチを取り入れたアーティストとしては著名だ。 こういったグリッチ音を取り入れた電子音楽は情緒豊かなものが多い。たとえばFenneszの「Endless Summer」はグリッチ音やノイズを効果的に取り入れることで世界観を作り出している名盤のひとつだ。

こういった類の情緒は、レコード、あるいはすこし例からは離れるが8bitのゲームのような「昔のもの」が持つノスタルジーによって呼び起こされるものなのかもしれない。たしかに、ヒットチャートを賑わす最新のJ-POPよりも、レコードが主流だった時代の音楽、あるいはその時代を想い起こさせるような音楽こそ、レコードで聴きたくなる。

アイドルの新たな楽しみ方としてのレコード

昨今では、アイドルでもレコードを発売するグループが増えてきた。今回のレコード・ストア・デイに合わせて、富士山ご当地アイドルグループ・3776(みななろ)や、BiSの元メンバーであるテンテンコがアナログ盤をリリースする。

また、新潟を中心に活動するご当地アイドル・RYUTist(りゅーてぃすと)と、今年デビュー10周年を迎えた”オシャレ系アイドル”「バニラビーンズ」は、それぞれに日本のロックバンド・The Pen Friend Clubとのスプリット・シングルを発売する。The Pen Friend Clubは、まさにレコードが主流であった1960年代中期のウエストコースト・ロックを感じさせる音楽性を全面に出したバンドだ。レコード・ストア・デイの4月22日にはタワーレコード新宿店でインストアイベントを行うということで、僕も足を運んでみようと思っている。

アイドルにもまた、レコードの時代から現在に連なる歴史がある。アイドルファンの楽しみの一つに、グッズのコレクションがあるが、ポスターや生写真など、手に触れられるものとしてそれを持つことの価値はいつの時代も変わらない。そう考えてみると、ポスターのようにディスプレイできる大きさのアナログ・レコードは、グッズとして見ても充分すぎる価値があるだろう。

ところで、アイドル界には、握手や投票のためにファンが何枚も同じCDを購入するといった現象があり、そのようにして部屋に眠っていたり廃棄されたりするCDたちにはどうしてもネガティブなイメージがついて回る。こういった販売方法は「AKB商法」などといった言葉で括られ、批判もされてきた。

しかし、アイドル界におけるアナログ・レコードの存在は、いままでこのように批判されてきた楽しみ方のオルタナティブとして根付きつつあるのではないだろうか。何十枚ものCDを買う代わりに、部屋に一枚のレコード盤を保有する。それはアイドルファンにとって特別なことだ。

「レコードで聴きたくなる」アイドル

グッズの一つとしてディスプレイすることができるという点で「物体そのものの価値」を楽しむことができるアナログ・レコードだが、とはいえその本質は中に刻まれた楽曲を楽しむものである。

レコードを持っている人間は、やはり音楽が好きなんだな、というイメージも強い。どういうわけか、コアなアイドルファンには「音楽好き」を自称する人間も多く、アナログ・レコードを購入するからには、その楽曲が持つ「あたたかみ」に触れないわけにはいかないだろう。

そういったなかで、現在のアイドル界にアナログ・レコードが定着するということは、「アイドル」が音楽の一ジャンルとして定着してきているということの何よりの証左だと思う。著名なミュージシャンや大御所作家がアイドルに詞・曲の提供を行うことも珍しくなくなり、今ではアイドルもロックも好んで聴くという人が当たり前のように存在する時代だ。

昨年には、2013年に大ヒットしたAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」のアナログ盤が発売された。発表直後の2013年にはそれまでのアイドルソングらしからぬゆったりしたテンポに違和感を持った一部のファンから不評だったが、評論家や音楽好きには概ね高評価で、それらの口コミもあってロングヒットとなった。曲調も、レコード全盛期のフィリー・ソウルを元ネタとしたもので、レコードで聴きたくなる楽曲だ。

AKB48はその間にも、2015年の秋に「クラブじゃないんだ、ディスコだよ!」というキャッチコピーと共に、80sムード全開のディスコチューン「ハロウィン・ナイト」を世に送り出し、この曲に至ってはシングルCD発売の翌月には早くもアナログ盤を発売した。

また、70s80sのディスコチューンと言えば、往年のHello Project!を思い出す人も多いかもしれないが、2016年にはモーニング娘。’16による痛快なディスコファンク「泡沫サタデーナイト!」を表題とするシングル曲にも数量限定でアナログ盤が制作されている。

こういった作品がヒットシングルとなった時代である。卵が先か、鶏が先か…はわからないが、音楽のトレンドが変化するのと呼応して、音楽を聴く媒体にも変化が起こってきているのかもしれない。

レコードの時代に全盛であった音楽にインスパイアされた現在(いま)の音を、あえてレコードで聴く。そこには楽曲の持つ息遣いや手触り感が、時を越えて目の前に浮かび上がってくるような特別な体験が待っているだろう。

レコードプレーヤーはそれなりに高価であるし、円盤は大きい分だけスペースも取るなど、障壁もないこともないが、レコード・ストア・デイを機にアナログ・レコードに手をとってみるのもいいかもしれない。

MC内郷丸の「ほんと何もできません」
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MC内郷丸がラップをつくったり、考えたことを書いたりします。...