僕はMC内郷丸。ラッパーである。

ラッパー…と自称していいのか不安だが、ラップをしてるすべての人がラッパーであると考えていいんだと思っている。少し前にブームに乗って一人台所でラップをはじめ、先輩の誘いで「社会人ラップ選手権」に出て、そのままなぜかこのSynapseでラッパーとしてオンラインサロンを開いている。

ラッパーなので複数の女性を侍らせて高級外車を乗り回したりもしたいところだが、現実は、毎晩コンビニの夜勤でメイクマネーし、イルなバイブス漂う自宅に帰る毎日だ。帰ってきてからも本当はラップをしたいのだが、同居人(男友達2人)が寝ているので我慢し、MCバトルの動画をディグる日々を過ごしている。

でも、MCバトルには出るようになった。MCバトルじゃないけど、ラッパーが出るような他の大会にも出るようになった。先月はポエトリースラムジャパンという大会に出場し、その体験記はこのシナプス・オンラインマガジンに掲載されている。負けばかりの日々だが、昼夜逆転の生活をしていると外で人に会う機会もそうそうないので、こうやって休みの日を過ごすのがとても楽しい。

先月は2月25日に「Hybrid Battle」という大会に出場してきた。

ラップとダンスの融合

「Hybrid Battle」。ラップバトルとダンスバトルを組み合わせた大会である。すごく簡単に説明すると、ラッパーとダンサーが二人一組でチームを組み、ラップとダンスを交互に披露。そして、どちらのチームの方がよかったかを会場と審査員が判定する。今回は16のチームが出場しており、トーナメント形式で優勝を決める。準決勝からはラップとダンスが同時に披露されるターンもある。前回大会の動画があるので見てみてほしい。

ラッパーが「日本語ラップの【革命家】/ダンスのStepなら【Up & Down】」と韻を踏みながら、その言葉に合わせるように、ダンサーとラッパーが同時に上から下へ体を落とす。言葉と動きが完全にビートにマッチしていて、会場もものすごい勢いで湧いている。

MCバトルにもタッグマッチはあるし、ダンスバトルにもタッグマッチはあるそうだ。でも、ラッパーとダンサーのタッグマッチというのは聞いたことがなかった。僕はその新しさに惹かれた。

そして何より、「エントリーしたい!」と思ったのは、一緒にタッグを組みたい人間がすぐに思い浮かんだからであった。oyaziである。「oyaziである」って…「oyazi」って誰だよ…って話なのだが、僕の大学の同期だ。ダンス部の部長を務めていた僕の友人である。ダンスのためにアメリカに留学し、アポロシアターで踊った経験もある。一時期同じ仕事先で働いていたという経験もあったし、コイツと一緒に出たい!と真っ先に思った。

ステージに上がるということ

僕がバトルに出るようになってから強く思うのは、人前に立ってパフォーマンスするというのは思っていた以上に力を使うということだ。「え?そうなん?最高に楽しいぜ!」なんて思う人もいるかもしれないが、少なくとも僕にとってはそう簡単にはいかない。

MCバトルがブームになる前からアイドルが流行っているが、ステージの上から客を盛り上げるという点ではMCもアイドルも変わらない。アイドルたちは客の注目を集めるステージの上で、歌と踊りを同時にパフォーマンスし、曲と曲の間にはトークで会場を盛り上げる。

いまだにアイドルのライブを「お遊戯会」「文化祭の出し物」といった表現で揶揄する人がいるが、よく考えて欲しい。注目を集めながら体も声もすべてを使って、目の前のお客さんを楽しませるのである。ワンマンなら二時間くらいやるライブもあるだろう。それを、ついこの間まで普通に学校に通っていたような女子中高生がやっていたりするのだ。緊張するだろうし、すんげー大変なはずだ。

僕は実際にステージに立つようになって、これを痛感した。一回一回、ステージに立つ時に異常に緊張するし、ステージの上に立てば体が熱くなる。そしてバトルが終わってステージを降りた瞬間、どっと疲れる。ほんの数分、小さなステージに上がるだけでこれである。僕はMCバトルに出るようになって、ブームのときにご多分にもれずそれに乗っかり、好きになったアイドルをさらにリスペクトするようになった。

また、ステージに上がるときに一人というのは非常に心細い。MCバトルの場合、厳密に言えばステージ上にいるのは自分一人ではないが、他の人間は司会者や対戦相手である。頼りになるのは自分しかいない。あるアイドルグループのライブを観ていて、「ああ、こういう風に一緒にやれる仲間がいるってのはいいなあ」とも思っていた。

先の動画は第一回の大会の決勝戦なのだが、実はもともとはこの第一回から出たいと思っていた。しかし、大会の存在を知ってすぐにoyaziに連絡をとったのだがスケジュールが合わず参加を諦めた。今回はなんとか互いのスケジュールが合い、すぐにエントリーを決めた。念願叶って、仲間との参戦だ。

いざ会場へ

夜勤が明けて一度帰宅してから、家で延々とひとりぶつぶつとラップをしながら時間を過ごし、そのまま会場へ向かった。

対戦表に目を向けると、一番左に僕の名前。みんなで眺めながら「これ、左からですよね…」「いや、逆になんで右からだと思うんだよ」と談笑…いやいや笑ってる場合じゃない。最悪だ。また一発目だ。

なんだか知らないが、僕はやたら一発目が多い。はじめて出た「社会人ラップ選手権」も、「ポエトリースラムジャパン」も一発目だったし、今回もだ。なんか呪われてるんじゃないだろうかという気分になってくる。

これもまた、ここ最近ステージに立つようになって本当に実感するようになったことだが、一発目っていうのは本当に不安だ。どういった言葉選びや音の乗せ方、動きが一番適切かというのはまったくわからないし、「なんか俺ってこの会場に偶然紛れ込んでしまった異物っぽいよな…」という感覚に苛まれるので、どうしても全力が出せる感じがない。「変に空気に飲まれたらいけないから、テンション高めに行こう!」って意識しても、そのテンションが空回りしてしまうこともある。たとえばM-1の一発目の点数はあまり伸びない、みたいな話があるがこれも同じことだろう。

ダンサーによるショーケースのリハーサルが終わり、お客さんが少しずつ入ってくる。最初にルール説明と審査員の紹介があり、早速バトルが始まる。やっと念願叶って友人とタッグでバトルに出られる機会を得たというのに、もう既に萎縮気味。うっわ、ほんとにこんなにすぐ始まるんだ、という感じ。oyaziも、いつもは結構堂々としているタイプの人間なのだが、「え、これもう始まんの!?」なんて言っている。

バトル開始!

相手はまったく知らない方のチームだった。じゃんけんに負けて先攻に。ラップバトル→ダンスバトルの順番に行われるので、最初は僕からである。僕は流れてくる音に乗せて勢い良く口火を切った。

しかし、ラップしている途中「…ってかこの人、誰…?」なんてことを考え始めてしまい、ラップが詰まる。よく考えたら、いままで出ていたバトルのほとんどは、社会人向けという名目だったので、はじめに互いの職業を含めた自己紹介シャウトがあったりするものだった。なので相手のことを本当に何も知らなくてディスろうにもディスれないということはなかった。今回は何も思いつかずにアタマが真っ白になってしまい、それがそのままラップにも出てしまった。

一瞬ラップが詰まったり、適当なライミングでごまかすというのは全然よくあることだが、今回は内容の無いリリックを吐いて目の前の空白を埋めるので精一杯だった。いや、しかしよく考えなくても、最初に自己紹介コンテンツなんてものがあるほうが特殊だ。

苦し紛れに「お前は誰だ」とラップに乗せて聞くと、相手は「自分から名を名乗れ」という。まったくそのとおりのクリティカルなアンサー。完全にラップパートに関しては負けたわ、という状態でダンスパートに入った。

ダンスに関しては僕が書いてもあまり意味がないので割愛するけど、oyaziは明らかにラップパートで劣勢になっていたのにもかかわらず、堂々とパフォーマンスしていた。しかし、結果的に僕たちのチームは一回戦負けとなってしまった。

「なんか仲間と一緒にやりたい!」と思っていて、やっと仲間と一緒にステージに立てる機会が来たと言うのに、気合はそのまま空回りし、イベントのはじまりもはじまりで負けてしまった。いままでは一人だけで出ていた分、負けても「まあしゃあないわ」と割り切ることができていたが、二人で出ていると、相手にも悪いし、自分が足を引っ張ってしまったと思うといままで以上に悔しかった。

でも、イベントはとてもいい雰囲気だった。日中にはキッズダンスバトルが同じ場所で開催されていたということもあって子どもも多くピースフルだった。ダンスバトルを観たのもはじめてだったが、「ダンスのフリースタイルもラップと似ているな!」という発見があって面白かった。

ラップもダンスも、実力がないといけないことに変わりはないが、それぞれの人間にスタイルがあって、それが鳴ってる音楽や状況にぴったりハマったときに会場が湧く。僕はダンスを観ていてどの人が特に上手いといったものはわからなかったが、「これは観ていて気持ちいい!」という瞬間は何度もあって、単純に観客としてダンスイベントに行く一日があってもいいなと思った。審査員として参加していた焚巻さんのスペシャルライブでも、今回のイベント趣旨に合わせてダンサーとのコラボレーションを披露する一幕があった。カッコよかった。

Hybrid Battleを終えて

イベントがすべて終わったあとには自然とオープンマイクのような状態になり、少しだけラップして、終電前に会場を後にした。帰り際、一緒に参加したoyaziと「また出よう」「おう」とだけ話した。

せっかく友人と一緒に出たので、この記事も「昔からの友人とバトルに乗り込んでいって優勝だ!」という友情譚にしたかったのだが、残念ながらそううまくはいかなかった。無力…。帰りも電車の中で疲れて寝てしまって、気がついたら三浦半島の最南端まで行ってしまい災難だった。

しかし、やっぱりステージの上に立つというのは楽しい。終わったあとにどっと疲れる、と言ったばかりなのに何を言ってるんだと言われるかもしれないが、終わったあとの疲労感が気持ちいいというのもまた事実だ。

というか、やっぱりそれが楽しくて、気持ちよくて、結局大会に出てしまうんだと思う。僕は「また出よう・・・!」と心に誓って、タクシーで無駄金を叩いて自宅に帰ったのであった。

MC内郷丸の「ほんと何もできません」
MC内郷丸の「ほんと何もできません」
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MC内郷丸がラップをつくったり、考えたことを書いたりします。...