7/25(月)、東京都千代田区の紀尾井町サロンホールにて、Carat88(カラット)の定期公演が行われた。Carat88は中矢美里さん、山下詩織さんの二人で構成される、音楽大学卒の女性二人によるガールズピアノデュオ。各種コンクールでの入賞経験も豊富で、テレビ番組内のピアノ演奏企画で優勝したこともある本格派デュオだ。
お二人には、現在Synapseにてオンラインサロンを開設・運営をいただいており、今回はイベントの運営支援がてら演奏を楽しませて頂いた。

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連弾のダイナミックな音の重なりと繊細さ

紀尾井町サロンホールは2012年にオープンした比較的新しい会場だが、ここでは毎日数々のクラシックコンサートが開催されている。会場の中に入ると、オーク材の香りが漂い、柔らかな照明の下には俗に「神々の楽器」とも言われる高級メーカーSteinway & Sonsのフルコンサートグランドピアノが設置されている。

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心地良い熱気に包まれる会場に、Carat88が入場してきた。挨拶もそこそこに、二人がそのピアノの前にスタンバイすると、一瞬の静寂。
一曲目はエルガーの「愛の挨拶」からはじまった。誰もが聴いたことのある“あの曲”である。気になった方は是非検索してみて欲しい。緩やかではあるけれど、4分の2拍子のシンコペーションは独特のハネ方をしていてどこか可愛らしい。優美な曲想は会の始まりを告げるのにピッタリだ。

前半の構成は下記の通り。

エルガー/愛の挨拶(P:中矢美里、S:山下詩織)

プーランク/シテール島への船出(P:中矢美里、S:山下詩織)

ブラームス/ハンガリー舞曲第五番、第六番(P:中矢美里、S:山下詩織)

シューマン/アレグロ  Op.8(中矢美里ソロ)

全体的に耳に親しみやすいメロディアスな曲で構成されている。その中でも、可愛らしいさ溢れる曲や、華やかな曲、緩急が心地よくデュオであることの良さが出る曲と、バラエティに富んでいる。特に筆者のお気に入りは「ハンガリー舞曲第五番、第六番」だ。アイドル顔負けのビジュアルと、所作から発せられる愛らしさからは想像できないくらいの華やかさ、艶やかさが表現されていた。

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突然ではあるが、私はクラシック音楽が好きだ。仕事中は大抵クラシック音楽を掛けている。そんな私が知っている中でも、ピアノ楽曲といえばソロ曲は数も多く演奏を聴く機会も多いが、デュオとなるとその数は途端に少なくなる。

しかし、Carat88は古今東西錚々たる作曲家たちが残した、数多あるデュオ曲、またこれから生まれるデュオ曲の素晴らしさを、世の中に広めたいという想いで結成したと言う。
ピアノデュオには、二種類の形式がある。二台のピアノを使う形式と、一台を二人で使う形式、いわゆる「連弾」だ。今回のコンサートは基本的には連弾で、二人がプリモ(高音担当)とセコンド(低音担当)に分かれて一台のピアノを演奏する。連弾といえば、「手が喧嘩する(プリモの右手とセコンドの左手がぶつかる等)」「ペダルを踏むタイミングが難しい」などとよく言われるが、まさに二人の阿吽のコミュニケーションが演奏を創るといって差し支えない。

曲を理解する感性や世界観を表現する技術力があっても、コミュニケーションが上手くないと決して良い作品にはならないのが連弾の面白さだ。呼吸、アインザッツ、さらにはタッチを合わせるタイミング等、奏者同士の“おもんぱかり”と”コミュニケーション”が演奏の中からリアルタイムで伝わってくる。

例えば、映画「エヴァンゲリオンQ」に描かれるシーンの一つに、碇シンジとカヲルが連弾をするシーンがあるが、あれは連弾を通して心が通い合って、身体の動きまでシンクロしていることを示唆する重要なシーンだ。今にも崩れそうな危うさが緊張感を高める一方で、完璧なシンクロを感じられた時の昂揚感はまた格別だ。

前半の最後は中矢さんソロのシューマンで締められた。連弾曲の素晴らしさ、そして彼女たちの可愛らしさを感じられた。

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圧巻のメンデルスゾーン

10分間の仲入りをはさみ、後半が始まる。後半の構成は下記の通り。

シューマン(リスト編)/献呈(山下詩織ソロ)

シューべルト/ロンド Op.138(P:山下詩織、S:中矢美里)

メンデルスゾーン/アンダンテと華麗なるアレグロ(P:山下詩織、S:中矢美里)

山下さんのソロに聴き入った後、後半からはプリモとセコンドが入れ替わる。ここからはまた違う角度からCarat88の演奏を楽しめる。

後半の聴きどころはなんといっても、メンデルスゾーンだった。「アンダンテと華麗なるアレグロ」は、二人が「これ弾きたいね!」と意気投合し、連弾を始めるキッカケになった楽曲だと演奏の前に説明された。私はピアノ曲には詳しくないが、どうやら連弾曲の中でも特に難易度が高いとされる曲のようだ。アンダンテ部の「曲の最初から泣かせるなよ…」と思わずにいられない、静かであるけれども確かな情動。アレグロ部の快活な疾走感、文字通りの華麗なフィナーレ。

彼女たちの思い入れと情感たっぷりの名演に、私はこの曲と彼女たちのことがとても好きになった。一度お会いして、人となりを感じて、演奏聴いたらもうファンになっちゃうよね・・・。彼女たちにはそんな魅力がある。

改めて、コンサートは良い。

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曲間に挟まれるMCを楽しめるのもコンサートの醍醐味だ。Carat88は演奏もさることながら、MCも良い。仲が良いことが細かなアイコンタクトや表情変化から伝わってくるし、バリバリの実績があるお二人なのにどこか親密感を感じさせる素朴さ、愛嬌、ユーモアが感じられる。

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一瞬一瞬この宇宙で一回だけしかない音と音との組合せ

奏者のコンディション、客席の空気感など、その空間を構築するあらゆる環境が織りなす、一回性の緊張感を楽しみながら、作品の世界観に入っていく。これがコンサートの楽しみ方だ。

ソロリサイタルだって、80名がステージに上がるオーケストラにだって、コンサート特有の緊張感があり、そこには聖なる一回性が宿る。そしてその緊張感は「連弾とも言えば更なり。」なのかもしれない。
最後にはアンコールに応え、プログラムには無い楽曲が演奏された。多幸感と共にお開きとなった定期公演。Carat88のオンラインサロンの中では早くも次回、9/30に開催予定の公演に二人の目は向いているようだ。

クラシック音楽が好きな方、ピアノ曲の新しい世界を見てみたい方、是非お二人が運営するオンラインサロンの扉を叩いてみてはいかがだろうか。


写真:北澤 晋太郎

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