この本では、メディアと政治の関係性が、協調・共存路線から対立・コントロール関係へと変化してきた経緯と、その変化に対応してきた自民党の戦略が語られています。

マス・メディアに取って代わり、インターネットやソーシャルメディアが存在感を増してきたという「ソフト」の変化。中選挙区から小選挙区比例代表制への「ハード」の変化。
こうした変化によって、政治はメディア関係者と長期的な信頼関係づくりをする必要性を失ってきました。その時代の変化を受け(ときには変化を促進し)、試行錯誤を繰り返し、イメージ戦略に成功してきた自民党。比して、政治に対する力が低下するメディアの惨状…本書を読みながら、私は、メディアが政治に対して大きな力を持っていた時代のあるエピソードを思い出していました。

1958年(昭和33年)、激化した大衆運動の取締り強化を目的とし、岸信介内閣によって警察官の職務権限を拡大するための「警職法」(警察官職務執行法)が国会に提出されます。警職法反対運動の波は、東京・国会議事堂近辺から日比谷野外音楽堂へ、そして全国集会へと拡がって行き、国会審議は停止され、法案は撤回・廃案となりました。
この反対運動のデモ隊が掲げたスローガン「デートもできない警職法」は、トップ屋の鼻祖といわれた(のちに作家となる)梶山季之によって『週刊明星』に書かれた一篇のルポルタージュでした。
ルポのタイトルは「またコワくなる警察官-デートも邪魔する警職法!」。政府によって提出された法案を「デートも」という卑近なキャッチに置き換えることによって大衆を煽動し、悪法を葬り去るほど、当時の雑誌の力は大きいものでした。

現在、いくつもの雑誌が存続の危機を迎え、新聞もまた部数の減少に歯止めが利かず、インターネットの普及によってマス・メディアにおいてもアナログからデジタルの世界へと変化しています。
西田さんは、七章「縮小するマスメディアとジャーナリズム」において、テレビ、新聞、雑誌といったマス・メディア、ひいてはジャーナリズムの政治に対する力が弱まってきていることを指摘します。そこに書かれたマス・メディアが事業として苦しい状況に置かれている様子は印象的でした。
「自主規制を促すコンプライアンス」と題された節には、自発的に萎縮していくテレビの制作現場の様が記されています。かつて、視聴者からのクレームは電話で受け付けており、その多くは担当のプロデューサーが応対していたといいます。現在、こうしたクレームはメールでコーポレート管理部門などに届くようになり、テレビ局全体での騒ぎになってしまうそうです。また、電話での問い合わせに対する回答は録音され、その録音がネットで晒されることで炎上が起こります。そのため番組スタッフは「なるべくクレームの来ない番組にしよう」と萎縮してしまい、無難な番組制作がおこなわれるようになっています。
雑誌は、売上の低下に加え、名誉毀損訴訟の数が増加。一件あたりの訴訟費用が高騰し直接的な圧力に耐え切れなくなってきています。そして新聞は、デジタル化と読者の高齢化により、これまで日本で築かれてきた新聞社の地位が脅かされています。

こうしたメディアについて西田さんは、変わりゆくメディア環境のなかで「どう事業を継続するか」そして「政治のメディア戦略に対抗できるジャーナリズムは構築できるか」の二点を要諦として掲げ、幾つかの示唆・アドバイスを展開しています。

 「技術やインターネット、ソーシャルメディアがジャーナリズムを変える」という期待は、姿かたちを変えつつも潰えることがない一方で、「これまで日本の新興メディアは、なぜ日本のメディア環境を変えられなかったのか」という失敗の研究と実践への活用は行われないままである。ジャーナリズムの本質であるはずの批判的な眼差しは、なぜか自らへと十分には向かっていない。

言葉は厳しいですが、いま、メディアに携わる人々にとっては、問題を解く助けとなる内容が綴られています。

メディアを取り巻く環境の変化にイチ早く応じてきた与党・自民党に比べ、対応に遅れを取っているのはメディアだけではありません。人々が政治にネガティブな感情を抱きつつも、自民党政権が一定の支持を得られている状況(戦略の成功)を踏まえた上で、西田さんの叱咤の声は野党にも向けられています。

 不思議なことに、なかなかこうした状況に野党が適応する気配は見えてこない。それぞれの政党のアイデンティティを従来同様に主張し、伝統的な与党批判を繰り広げているだけに見える。
資金力で見劣りし、人々の認識の水準でも劣位にある。そうでありながら、迅速に現在の世論に適応しようという野党の顕著な動きは見えない。

今日までの自民党の対策・戦略を余すことなく書かれた本書は、今後さらに変貌し、より高度化されていくであろうメディア戦略を読み解くための入門書。インターネットによる政治・選挙の可能性に興味のある方は『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』も、是非手に取ってみてください。西田さんの次回作・今後の活動から目が離せません。

 

西田亮介の新書、文庫、雑誌で始めるリベラルアーツゼミ@Synapse
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月1回の読書会を実施します(原則、第3土曜日13時~@都内)。新書、文庫を中心に、教養を深めます。内容の要約、議論を中心に。人の集ま...