「2019年、東京オリンピックを目前に控えたの日本では『環境浄化』が声高に叫ばれ、それまで都道府県の条例に委ねられていた有害図書指定制度を一元化する『有害図書類指定制度に関する新法』(通称『健全図書法』)が成立・施行されていた。自主規制によりきわどい表現の創作物はいつの間にか書店から姿を消し、日々表現規制に反発するデモ隊がシュプレヒコールを送るかたわら、政府による“浄化作戦”と称した異常な排斥活動が行われていた。」

上記は、筒井哲也氏による漫画作品『有害都市(集英社)』の冒頭に描かれたシーンである。フィクション作品であるとはいえ、このような未来がすぐそこに迫っていたことを、あなたは想像したことがあるだろうか。

今回紹介するのは、元参議院議員山田太郎氏の著書『「表現の自由」の守り方(星海社新書)』である。本書は2012年12月、氏が参議院議員に当選をして以来、表現の自由を守るために取り組んできた活動の克明な記録だ。「表現の自由」を巡る法案の争点や、それを脅かす存在との戦い方等が分かりやすく、ときにエキサイティングに語られている。

本書で扱われているテーマは大まかに以下のとおり

・児童ポルノ禁止法の改正案について

・TPPによる著作権非親告罪化とコミケの危機

・国連、海外からの外圧への対抗

・書籍、雑誌の低減税率適用に際した「有害図書」の指定

・インターネットにおける通信の秘密の解釈

・青少年健全育成基本法と表現規制の今後

ここでは「児童ポルノ禁止法の改正案について」「TPPと著作権非親告罪化」という二つのテーマについて、本書の中身を一部抜粋する形で紹介したい。

児童ポルノ禁止法と表現規制の動き

いわゆる児童ポルノ禁止法とは、1999年に施行された「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」のことを言い、児童買春、児童ポルノによる被害を受けた児童の保護を目的に設定されたものだ。本来は「児童」が登場しないフィクション作品が規制の対象になることはないはずだが、同法案が国会に提出された当初から、同法の改正が検討されるたびにマンガ・アニメ・ゲームといった創作物全般を規制の対象に含めようとする動きがあった。

2013年児童ポルノ法の改正案が再提出された際には、表現規制の流れが過熱し、以下の条文が附則に加えられることが提案された。山田太郎氏が「表現の自由」を守るための活動に奔走するきっかけとなる出来事だった。

児童ポルノに類する漫画等の規制及びインターネットによる閲覧の制限については、この法律に施行後三年を目途として、前項に規定する調査研究及び技術の開発の状況等を勘案しつつ検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。

この条文を受けて

この項目は、単に創作物と性虐待の影響関係だけを調査するものではなかったのです。形だけでも調査を行いさえすれば、たとえ結論が出なくとも「勘案」したことになり、「必要な措置が講ぜられる」つまり、最初から三年後に表現規制を行うことを前提としたものに思われました。

と危機感を強くした山田太郎氏は、去る1999年同法案が施行されたことをきっかけに自主規制の流れが広まり、店頭から未成年のヌードや性的描写を含んだマンガが一斉に撤去されたこと(通称:紀伊国屋事件)を引き合いに出し、当時の安倍晋三内閣総理大臣、麻生太郎副総理らと国会で論戦を繰り広げた。その結果、上記条文は削除され、次の三点を全会一致で通すことに成功する。

1.児童を性的搾取及び性的虐待から守るという法律の趣旨を踏まえた運用を行うこと。

2.第七条第一項の罪の適用に当たっては、同項には捜査権の濫用を防止する趣旨も含まれていることを十分に踏まえて対応すること。

3.第十六条の三に定める電気通信役務を提供する事業者に対する捜査機関からの協力依頼については、当該事業者が萎縮することのないように、配慮すること。

この経験を経て山田太郎氏は

児童ポルノ禁止法を本来の目的において運用し、決して表現規制や検閲のために用いてはならないというエッセンスは、この三点に残せたと思います。

と胸をはる。その過程では「いかにして国会で言質をとるか」、「真っ向から立ち向かうのではなく、戦略的に主張に耳を傾けてもらうか」といったことの重要性が説かれており、法案審議の際に国会がどのような力学で動いていくのかというリアルな内情が非常に興味深く描かれている。

TPPによる著作権非親告罪化とコミケの危機

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は農作物の関税撤廃に関する争点が話題になることが多いが、それ以外にも様々な分野において国際間のやりとりを円滑化することが目的とされ、全部で21の分野が協議の対象となっている。無形物である「知的財産」の分野も例に漏れず、ここで中心的な議題となったのは以下の3点だ。

・著作権保護期間の延長

・著作権の非親告罪化

・法廷損害賠償制度

中でも「著作権の非親告罪化」については、著作者の申告なしに著作権の侵害を取り締まれることを意味しており、具体的にはコミケ(コミックマーケット)で扱われる同人誌の七割が該当する、二次創作物全てが取り締まりの対象になる可能性があった。

過去90回以上の歴史もち、数々のクリエイターが育ってきたコミケであるが、2015年3月の時点では、政府関係者にコミケをよく知る者はほとんどおらず、国会では「二次創作物とは何か?」といった初歩的な説明からしていく必要があった。

そのような中で、山田太郎氏は人脈を駆使してTPPの交渉官やMANGA議連(マンガ・アニメ・ゲームの振興を目的とした超党派の議連)へ直接働きかけ、コミケの重要性を繰り返し説いていく。

その結果、最終的に著作権は「原則親告罪化」に、「対価を得る目的や著作者の利益を害する目的で作られた海賊版のみ非親告罪化」とすることに成功する。

氏は

2015年三月の段階ではコミケは本当に危なかった。

717人いる議員の中で、たったひとりでも、それも野党議員であっても、こだわって取り組む人間がいれば、国を動かすことはできる。

と当時を振り返る。その活動の原動力は下記のような山田太郎氏なりの哲学だ。

豊かな文化・経済は表現の自由を前提とします。何も言えない、新しい提案も出来ないのでは、まるで一昔前の社会主義国のようです。そんな世の中では、文化や経済の発展はありえません。

人々が自分の責任において自由に生き、自由に表現し、その結果を自身が引き受けるような社会を望みます。

かつて250人を束ねる企業の社長職を担っていた経験からくる思いであるだろうか。「自由」を信仰しつつも、それに伴う責任の重要性が強調されている。

これから

山田太郎氏は、去る2016年7月に行われた第24回参議院議員通常選挙に立候補し、比例でおよそ29万票を集めながらも再選を果たすことができなかった。しかし、氏は、自ら立ち上げた『表現の自由を守る党』を『表現の自由を守る会』と改め、活動を継続することを明言している。

一旦の危機は免れたものの、依然として表現規制の圧力は強く、予断を許さない状況だ。具体的には『子ども・若者育成支援推進法』が『青少年健全育成基本法』と名称変更され、国会に提出されるタイミングが次の焦点になると予想される。

冒頭に引いた漫画作品の作者である筒井氏は、自身の作品が長崎県の青少年保護育成条例に基づく有害図書指定を受けた経験を持っている。そして、紹介した『有害都市(集英社)』の作中では、公権力の表現規制によってディストピア化した近未来の日本で、有害指定制度の壁に直面する漫画家の苦悩がリアリティを持って語られる。

各々が「表現の自由」のためにできることを考え、声をあげなければ、冒頭の未来は決して絵空事ではない。

規制によって規律が保たれるという側面もあるのは事実であるし、これを以って規制側が持つ主張の一切断じるわけではないが、「表現の自由」は人が生きるための最も基本的な自然権の一つである。互いの自由と人権を尊重し選択的に生きて行くために「表現の自由」が重要なテーマであることに疑いの余地はない。

だからこそ、そこには徹底的な議論が必要だ。「どちらが正しい」と言うような話ではないにせよ、根拠の薄い仮説や無理解を元に「表現の自由」が規制されることはあってはならない。「青少年の健全育成」という大義名分は決して否定されるべきものではないが、果たして本当に規制対象としてあげられたような作品がその目的を阻むものであるのだろうか。

政治の場というのは、ときに偏った主張を元に意思決定がされてしまう可能性が否めない。しかし、だからこそ私たちには声を上げる権利が認められている。

山田太郎氏の活動に共感している、共に理想とする「表現の自由」を追求したいという方は、是非「山田太郎の”僕たちのニューカルチャー” ~表現の自由を守ろう!~」を覗いてみて欲しい。活動には、現場を理解しているあなたたちの協力が不可欠だ。

山田太郎の”僕たちのニューカルチャー” ~表現の自由を守ろう!~
山田太郎の”僕たちのニューカルチャー” ~表現の自由を守ろう!~
山田太郎の”僕たちのニューカルチャー” ~表現の自由を守ろう!~
山田太郎の”僕たちのニューカルチャー”は表現の自由を守るためのオンラインサロンです。マンガやアニメ・ゲームといったコンテンツはもはや...