東京から新幹線で80分、越後湯沢でほくほく線に乗り換え、さらに30分ほど電車に揺られたところに美佐島という駅がある。

全ホームが地下のトンネルの中につくられており、地上に出るためには長い階段を上らなくてはならない、一風変わった趣のある駅だ。外に出ると、深い谷と斜面に開墾された田んぼの景観が美しい。

谷

「ギルドハウス十日町」は美佐島駅から徒歩15分ほどのところにある。セルフリノベーションした築100年の古民家に10名ほどが居住する。2015年5月に『住み開きの古民家』としてオープンして以来、全国津々浦々からの訪問者を受け、その数は実に延べ4,000人(2016年9月現在)を超えるという。

一体なぜこれほどの訪問者で賑わっているのか、その秘密を探るべくギルドハウス十日町の家主であり発起人の西村治久さんに話をうかがった。

ソーシャルネットワーキング時代の先端を行く45歳

西村

西村さんは現在45歳。長らくIT企業に勤めていたが40歳にして独立した過去を持つ。

「子供の頃からパソコンに親しみ、新卒ではソフトバンクに入社しました。その後新潟のwebベンチャー企業に勤め、17年ほどハードワークをこなしました。そんな折に東日本大震災があり、それをきっかけに人生を見直すようになったんです。当時SNSによりつながった個人のパワーに可能性を感じたので、そうした社会の変化にあわせて自分も変わっていこうと思い立ち、フリーランスのwebプランナーとして独立しました。」

2011年といえば、「ノマド」「シェアリングエコノミー」といった言葉が普及し、特にIT界隈においては会社組織に依存しない新しいライフスタイルが広く提唱されていた時代である。いざ、その実践者となった西村さんは当時をこう振り返る。

「当時東京のコワーキングスペースと新潟とを行ったり来たりしながら仕事をしていました。日本におけるコワーキングの黎明期ということもあり、シーンをつくってきた人たちと仲良くなることができました。そこから日常会話の延長で仕事が生まれていく体験をして、これはすごいなと。調べたところ新潟にはなかったので、新潟で最初のコワーキングスペースをプロデュースしました。それから長野のコワーキングスペースに行ってみたらそこも面白くて…NPO、行政、観光業者の方などが一緒に働いていてすごく感銘を受けました。」

西村さんは、様々な人が集い、そのつながりから次々と仕事が生まれる様子に心酔し、全国のコワーキングスペースを転々としながら3年間に及ぶ放浪生活を送った。

しかし、さまざまなコワーキングスペースを見る中で、次第にコミュニティや社会の抱える課題も見えてくるようになったという。そして、その思いを形にしたのが「ギルドハウス十日町」である。『住み開きの古民家』をテーマにしたこの場所は、西村さんにとって旅の集大成といってもいいだろう。

来るもの拒まず。「ギルドハウス十日町」の思想設計

家

「オープンして間もなく人が住むようになり、あっという間に4,000人が訪れるようになりました。商業施設や宿泊所ではない「ただの家」としては異例の数だと思います。たくさん人に来てもらえるよう仕込みはしたけれど、正直ここまでたくさん来ることは予想していませんでした。」

とうれしい悲鳴を上げる西村さん。それにしてもいったいなぜこれほど多くの人が訪れるのか、その背景には西村さん独自の設計思想があった。

「まず、私はルールをつくるということを一切していません。宿泊費用もとっていない。家のコンセプトもオープンなものにして、とにかく初めて訪れる人に向けたハードルを低く設定しました。小さな流入経路を複数持つというのもポイントです。facebook、twitter、Colish(コンセプト型シェアハウスの紹介サイト)、仕事旅行(職業体験を予約できるサイト)など小口の窓口をたくさん持っています。多くの人の目に触れるのはかえって余計なことを言われたりするのであまり望ましくない。本当に情報を欲しい人が少数見るような発信を心がけています。」

中でも一番大きいのは口コミによる紹介だという。

「口コミを誘発するための仕掛けもあります。重要なのは一人あたりの滞在時間を長くすること。一泊しただけでなかなか良さはわからないのでなるべく2,3泊したくなるような仕掛けをつくります。住人たちが自然と仕事や遊びに誘ってくれるので、後は勝手に仲良くなって自然と人に紹介したくなる流れが出来上がります。」

田んぼ

実際に筆者が滞在した間にも、服飾デザイナー、起業家、音楽家、ここから地元企業に通勤するサラリーマン、たまたま訪れたボーイスカウト、実家を離れることが目的の体験入居者、日本を観光して巡るオーストラリア人など、実に目的・背景・流入経路も全くバラバラな実にバラエティに富んだ面々と仲良くなることができた。

「初期費用はシャワーと給湯器の設置25万、あとはDIY資材の購入など計50万くらいです。なるべく初期投資と維持費を安く抑えることに重きを置きました。」

大きな広間の正面には手づくりのロケットストーブが鎮座する。手づくりとはいえ大変な力作である。これで厳しい冬の寒さを乗り切るのだという。2階には住人のアトリエや短期・中期滞在者がくつろぐ畳のスペースがある。そこにはバーカウンターが備え付けてあり、ここで夜な夜なアルコールを交えた語り合いが開かれる。

バー

「住み開き」という思想概念

西村さん曰く、ギルドハウス十日町は「シェアハウスではない」のだという。そこに経営という考えはないのだ。「住み開き」という概念で自分の住居を開き、誰もが出入り可能なものにし、利用者みんなで必要な維持費を分担するというシンプルな設計があるだけ。

「死ぬまで楽しく暮らすにはどうすれば良いかということを考えています。今の状態を5年後も続けていられる保証はどこにもないので、常にアンテナを張って新しい仕掛けをしていくつもりです。」

自らを「住み開きの隠居生活者」と表現する西村さんだが、目線は常に前を向いている。そんなギルドハウス十日町にも近々住居に空きが出て、また新しい入居者が住み始める様子だ。東京都港区、兵庫県篠山市(ささやまし)、瀬戸内海に浮かぶ小豆島などにも拠点があり、互いに行き来することが可能だ。

「全国とつながっているWebプランナーの旅人、地域PRを担う起業家、服飾職人、作曲家、7ヶ国語を話すスローライフ実践家、漫画図書館の設立を目指す人など、個性豊かな住人が集まってきました。住人たちの多様な活動をいっしょに体験することで、みなさんの活動のフィールドを広げていただければ嬉しいです。」

興味を持たれた方は是非「ギルドハウス十日町」に訪れてみてはいかがだろうか。

住み開きの古民家「ギルドハウス十日町」サポーターズサロン
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