いま、世間は空前のラップブームに沸いている。ブームの火付け役となったのはMCバトル番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)だ。公募により集まった「チャレンジャー」が番組の用意した並み居る強豪フリースタイルラッパー(ラップモンスター)とMCバトルを繰り広げる。その様子をRPGのゲーム攻略に見立てたスリリングな演出が評判を呼び、テレビだけでなくネットでも人気を博した。

その結果、従来一部の界隈でのみ親しまれていたMCバトルが、繰り返しメディアやバラエティ番組で取り上げられ、今ではすっかりお茶の間で消費されるものとして定着した感がある。また、2016年4月には「第一回社会人ラップ選手権」が開催され、そこに募集が殺到して急遽予選会が開催されることになるなど、実に多くのアマチュアラッパーが存在することが示された。

MC内郷丸とは

そんな中、静かに注目を集める一人のラッパーがいる。それがMC内郷丸だ。彼は大学を7年かけて卒業した後、コンビニでバイトをしながらトップMCへのスターダムを駆け上がる、まさにその途上にいる。

自身でラップをやるようになったのは2016年からで、執筆現在時点でキャリアは1年にも満たないが、2016年8月に行われた「第2回社会人ラップ選手権」では、その独特のキャラクターとテクニカルなライミングを武器に、並み居る強豪を撃破し決勝ラウンドへ勝ち上がった。

今回は、そのMC内郷丸に独占インタビューを行うことができた。

内郷丸

プロフィール:MC内郷丸
ラッパー、パフォーマー、批評家。横浜市立大学を7年かけて卒業した後、公務員試験に落ちたことをきっかけに、行き場のない思いをラップに乗せて吐き出すことで開眼。MCバトルはもちろんのこと、オリジナル楽曲の制作にも取り組み、ライブ出演の機会も増えてきている。大学在学中にはじめたブログが人気を博し、社会学的知見を交えたアイドル評論にも定評がある。第2回社会人ラップ選手権決勝進出。

「ラップというフォーマット自体が面白い」

——HIP HOPやラップには昔から関心が?

MC内郷丸「いえ、全然そんなことはなくて。幼少期はピアノを習っていたので、親しんでいたのはクラシック。その後、反動もあってか高校では軽音楽部に所属し、主にエモい感じのギターロックを聴いていました。よくあるパターンですね(笑)」

——でも、音楽にはずっと親しんできたんですね。そんなMC内郷丸さんから観て、HIP HOPはどのように映ったんでしょうか?

MC内郷丸「僕の場合は、音楽ジャンルとしてのHIP HOPというよりかは『ラップ』というフォーマット自体に面白さを感じていました。元々は、大学で何度も留年した末に受けた公務員試験に落ちたときの気持ちを吐き出すために、『ラップ』を使ったことがきっかけです。」

——そこでなぜラップに?

MC内郷丸「昔から文章を書くのは好きでした。あまり激しく主張ができない性格の割に、一方でイイタイコトはいっぱいあって。それでブログを書いたりもしていたのですが、テキストだとどうも本音というか・・・リアリティのある言葉を紡げない。綺麗に批評的な言葉を綴っていたとしても、心の奥底では『クソ食らえ!』とか思ってるわけですよ(笑) そういうことを言っても構わないのが『ラップ』というフォーマットでした。」

内郷丸2

——HIP HOPの世界では、繰り出される言葉が「リアル」であることが価値とみなされたり、Disり合う(互いに罵り合う)ことが、空気として許されている感じがありますね。

MC内郷丸「空気として許されているというよりかは、むしろそれがカッコ良いんです。それで、『あぁ、自分が本当にイイタイコトを言うことで、カッコもつけられる世界があったんだ』と。やっぱり世間一般の考え方で言うと、カッコつけることって着飾ることなんですよ。でも、それってリアルじゃないというか、そういうのにどうしても馴染めずに生きてきたので。」

——自己表現の形として、MC内郷丸さんにフィットしていたんですね。そんな内郷丸さんから見てカッコいいラッパーは?

MC内郷丸「正直みんなカッコいいですよ! なので、まだ自分がラップしてる音源を聴いたり、映像を見たりして『あああああああ!!』ってなってます(笑) ただ、それすらも一つのリアルですし、特にMCバトルにおいては『ダサい自分』が武器になることもあります。相手のスキルが高くても、ヴィジュアルがイケてても、そこで勝負が決まるわけじゃない。そこが劣っていても、思いっきり自分のリアルをぶつけることで、立場をひっくり返せることもある。」

「強面の人やワルが強いというわけじゃない」

——MCバトルって奥が深いんですね・・・!

MC内郷丸「そうですね。実際にやってみて、ただ単に即興で韻を踏み合ってるだけじゃないんだなというのを学びました。ビートにも上手く乗れてないし韻もあまり踏めてないラッパーでも、会場を味方につけて盛り上げるMCっているんですよね。そのMCが持っているリアルな思いには強さがあって、それが覇気となって伝わってくる。MCバトルの世界ではこれを『バイブス』と言ったりします。『バイブス』が伝わってくるMCのラップを聞いてると、『うおおおお』って、気分が高揚します(笑)」

——でも、そうなると、やっぱり強面だったりワルだった経験のある人が強いということになったりは?

MC内郷丸「それが、そうでもないんです。MCバトルでは、有名な方だとDOTAMAさんなど、見た目も育ちも全然『ワルくない』人たちも活躍しています。相手の目も見られないような性格だけど顔を隠してバトルをやっているハハノシキュウさんのような独特な方もいます。『バイブス』は、必ずしも見た目の怖さや暴力的なリリックから生まれるものではありません。例えば相手にDisられた時に『うるせぇぶち殺すぞ!』ってどれだけ怖く言えたとしても、ちょっと違うというか。それ、相手のDisを受け切れてないじゃないですか」

——受け切るのも強さであると。

MC内郷丸「そうですね。MCバトルはただの口喧嘩じゃないですから。やっぱり『筋が通ったDis』があって、それを踏まえた『的確なアンサー』がある。ラップなんだけど、会話としてもしっかり成立している。そういうときこそ、バトルしている二人も会場も、高まっていくんですよね」

——なるほど。色んな”強さ”の形があるんですね!

MC内郷丸「例えば輪入道さんという方は、見るからに悪そうな風貌だし吐くリリックも凄くハードコア。一方でTKda黒ぶちさんという方は名前の通り黒縁メガネがトレードマークで、今は会社員として働きながらラッパーをしているそうです。二人は正反対のMCですが、両方とも”受けきって返す”タイプで、僕はどちらも凄く好きです。キャラクターがどうであろうと、そこに嘘がないか。また、自分の弱点をDisられてもそれを受けきった上でカッコよく返せるかで勝負が決まる。それが、音源のラップにはない、MCバトルの面白さだと思います」

・・・

前編では、MC内郷丸が感じている「ラップの魅力」、「MCバトルの魅力」について伺った。後編では、そんなMC内郷丸自身の内面をもっと掘り下げていきたい。

内郷丸3

後編もお楽しみに!

MC内郷丸の「ほんと何もできません」
MC内郷丸の「ほんと何もできません」
MC内郷丸の「ほんと何もできません」
MC内郷丸がラップをつくったり、考えたことを書いたりします。...