皆さんは「佐渡島」と聞いて何を連想するだろうか。「金山」「流刑の島」「佐渡おけさ」、最近では「トキ」などが挙げられるだろうか。いずれも定番の観光メニューとなっており、多くの人は決められたルートをバスで回りそのまま帰っていく。

そこに魅力がないとは言わないが、二度目も同じ体験をしたいと思う人は稀だろう。今回は佐渡島に住んでいたこともある私から、観光ガイドブックに載ることのないディープな佐渡の姿をみなさまにお届けしたいと思う。

さぁ、一緒に出掛けてみよう。

国内最大の離島

「佐渡はデカい」。佐渡島をはじめて訪れた人が最初に口にする代表的な感想の一つだ。それもそのはず東京23区のおおよそ1,3倍(約855平方キロメートル)の面積を誇る。

今回訪れたのは佐渡の南東の海沿いに位置する「岩首」という60戸程の小さな集落である。四方を海と山に囲まれ、斜面にしがみつくように形成された棚田の景観が美しい。多くの住人はサラリーマンとして働く傍ら米作りに従事する。今回、私は毎年9月に集落総出で行う村祭り「岩首大祭」にお邪魔した。

ここから先は、岩首大祭に至るまでの様子を、写真も交えながら実況中継風に紹介したい。

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終わりが見えない!?超絶ストイックな岩首の祭り

18:00 –祭り前夜

集落の入り口に位置する神社「熊野神社」の拝殿に若者が集まっている。祭りを取り仕切る村の若手連中「岩首余興部」を中心とするメンバーだ。今夜は祭り当日に向け士気を高める、いわば決起会のような集まりである。今日に至るまで二週間にわたり準備を重ねてきた。

集まる若衆

祭りと聞いてみなさんはどのような情景を思い浮かべるだろうか。焼きそば、くじ引き、金魚すくい、花火…岩首の祭りはいずれのイメージとも合致しない。もっと、日本の“祭”の原点とも言えるような、祝祭感、濃縮感、そして情熱に溢れたものがそこにあるのだ。

00:00 —-祭り当日

若いメンバーが一部神社の拝殿に籠り、徹夜で番をしている。午前0時、祭り当日を知らせる太鼓の音が集落に響き渡る。その音に合わせ二人の男が対になって太鼓の周りで踊りの練習を始める。今日は年に一度の晴れ舞台だ。その後1時間おきに太鼓を打ち鳴らし、出発までのつかの間、入念な踊りの最終調整が行われる。

リハーサル

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04:00

『岩首余興部』のメンバーが集まり始める。法被に着替え、宮司のお祓いとお神酒で身を清め、静かに出番を待つ。緊張感が高まっていくが、合間には穏やかに談笑する声も聞かれた。まだ周囲は真っ暗だ。

談笑

05:00

祭りの始まりを告げる太鼓と共に、巨大な獅子が躍りでる。木製の頭に竹の骨組みで体を支えたものだが、そこに中に人が入るとまるで生命を得たかのようで、迫力満点だ。その後、赤と青の鬼の姿に扮した2人組が太鼓の前で舞を踊る。神に捧げる舞を奉納すると共に、一年お無病息災、五穀豊穣を祈るのだ。

獅子

鬼

神社を出た一行は、獅子が先行し鬼と太鼓が追従する形で村の家々を一軒ずつ回る。こうした形式は「門付け」と呼ばれ、佐渡では一般的な祭りの形態の一つである。

獅子2

鬼の一団は「太鼓」「笛」「踊り子」で構成される。鬼の舞には幾つかの種類がある。はじめに家を訪れた際に赤鬼と青鬼のペアが対になり、太鼓と笛に合わせて踊りを舞う。これを「ジマツリ」と呼ぶ。訪れた家から『御花』が上がると、お礼を込めて、周囲を取り囲んで踊り子のいずれかが、やはり二人一組のペアを組んで、鬼と同様の踊りを舞う。それを「スケウチ」と呼ぶ。一家の主人、兄弟、子供、親戚、友人、同僚など…あらゆる親族から御花が上がればその数だけ「スケウチ」を繰り返す。一軒あたり十回以上踊りを繰り返すことも珍しくない。

踊り

1回の踊りは約3分間程度だが、ヒンズースクワットのように何度も体勢を上げ下げするので、事前にトレーニングを積んでいない人間が真似をすると、1セットで息が上がり汗だくになる程ハードである。美しくキレのある踊りを踊るためには日々の研鑽と二人の息のあった呼吸が不可欠で、そのために毎年祭り本番の二週間前から毎晩神社の境内で練習を積むのである。

スクワット

祭りの練習は鬼の担当を決めるオーディションを兼ねており、毎年2組~3組の鬼のペアが一から選出される。選出には踊りの上手さはもちろんのこと、1日踊り続けられる体力、年齢、情熱、日々の研鑽の度合いなどを鑑み総合的に評価が下される。鬼に選ばれることはとても名誉なことであり、一家の誰かが鬼に選出されると、大げさに言えば集落における一家の地位が向上するほどの影響力を持つ。

鬼2

09:00

集落の決まった家に休憩ポイントが設置されている。そこではお酒や様々な料理が振舞われる。この日ばかりは首都圏に住んでいる息子・娘夫婦も、遠く離れた親戚も、一家総出で祭りの一行をもてなす。

もてなし

普段はシャイな村の住民もこの日は無礼講になる。私のようなよそ者でも玄関先で「こんにちは。いい祭りになりました。」というと「よう来てくださいました。まあ、上がって一杯やってください」といった具合である。酒を飲みながら親戚同士近況を報告しあったりする。季節はちょうど彼岸に当たるので、お墓参りと稲刈りなどの仕事もある。親戚が年に一回集まるための機能を祭りが担っているのだ。

13:00

午前の部が終わり、鬼が交代する。鬼のペアの数は年により2組の場合もあれば3組の場合もある。その年のメンバーに応じて変わるが、午後の鬼は一組ということだけは決まっている。午後の鬼に選ばれることが最も名誉なことである。

交代

17:00

振舞われる料理の品は様々だ。漁師の家では目を疑うような魚介類が出るし、それぞれの家庭の特色を見るのも祭りの醍醐味である。どんな料理があるのかなと思って気になって覗いてみると「まあ上がっていけっちゃ」と言われ、また酒を飲まされる。ああ、なんて幸せなんだろう。朝5時から酒を飲み続け、とうに意識は彼方にある。だが気にすることはない。今日は年に一度の無礼講。たがを外して飲むのが正しい祭りの楽しみ方だ。振舞われた酒、食べ物はすべておさめなくてはなくてはならない。

料理

20:00

夜になっても祭りは続く。祭りに参加するのは集落の人ばかりではない。鼓童という太鼓芸能集団の若い研修生たちだ。彼らは将来舞台に立つべく2年間佐渡で共同生活を送り、太鼓の技と感性を磨く修行に明け暮れるのである。岩首では十数年前から研修生の受け入れを行い、今では祭りを構成するピースとして欠かせない存在になっている。

彼らのパフォーマンスも岩首祭りに花を添える。研修生といえどそのレベルは馬鹿にできない。伝統的な技と若さが融合した勇壮な演目である。遠方からも観客が押し寄せ黒山の人だかりができる。今年も大盛況だったようだ。

こどう

人だかり

21:00

祭りもいよいよクライマックス。年に一度シャバに解放された獅子は神社に帰るまいと必死の抵抗を見せる。それを歌と太鼓でおびき寄せながらお宮へ誘導する。

けやり

22:00

60戸あまり、すべての家々で踊りを奉納した鬼たちがお宮に帰ってきた。この頃になるとさすがに踊り子たちも疲れを隠せないが、声を振り絞り、手を振りかざし、最後に渾身の舞を披露する。

24:00

花のお礼の舞を全て終えたのが24:00を少し回ったところ。その後、年齢順に『岩首余興部』メンバー全員が鬼を打つ「シメウチ」をして、ようやく長い長い1日が終わった。

おみや

omiya2

万歳

祭りを終えて

いかがだっただろうか。

もしこの記事を読んで、少しでも興味を持ってくれたなら、ぜひ岩首大祭に参加してみてほしい。個人的な見どころは、やはり鬼の勇姿。

鬼を担当した方に話を聞いたところ「小さい頃から鬼は憧れの存在だった」と言う。高校を卒業し島外に進学したが、卒業後に岩首で鬼を打つために地元で就職先を探す、そんなこともあるのだと聞く。

また、岩首大祭はいつだって「よそ者」を歓迎している。村内の人間関係強化や親戚一同が介する機会というのも大切だが、実はよそ者を受け入れて歓迎するというのも祭が持つ重要な一つの機能だ。

さぁ、皆さんも。いざ岩首へ。

ちょうちん

photo by Tsuyoshi Oshikawa

岩首談義所 ON THE WEB!
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